2014年4月18日金曜日

【インタビューを受けました】「とある翻訳家の生き残り戦略」

先日のアセナビライター募集の記事で紹介した鈴木君に、昨年末実はインタビューを受けました。

大学の授業の一環として課題が出ていたそうですが、その記事が彼から届いたので、僭越ながらこちらでも公開させて頂きます。

内容が内容なので、同業者からはあまり良い反応がおこらない気もするのですが、自分の正直な思いが綴られているので、藪内はこんなこと考えているんだ、というくらいに捉えて読んで頂ければ幸いです。

〜〜以下インタビュー記事〜〜

太字:鈴木君
細字:自分


ーブログでも反響を呼んでいるエントリー「なぜ僕は、新卒で始めた仕事をわずか5ヶ月でやめたのか?」を拝見しました。「組織で働く」からフリーランスへと大きく働き方が変わったと思うのですが、比べてみていかがですか?

今はとにかく自由で、自己責任の世界。元々は広告営業の新規顧客開拓をしていたんやけど、結果はついてきてた。お客さんに顔を覚えてもらって「またお願いしまーす」とか言われるのはすごくやりがいがあった。でも、労働時間について上から言われたり、理不尽に詰められたりしたのが辞めた一番の理由。その時に比べたら、気分的には相当楽やね。

ー翻訳という仕事は以前からやりたいって思ってたんですか?

どうやろう、ちょっとは思ってたかも。英語に対しては小学校5年の時から興味あった。言葉の仕組みが面白いなって感じていて。だから、大学でも言語学を学んだ。仕事を辞めてからポーランドを旅行してた時に、これからどうしようかと思ってた時期があった。すると、翻訳会社で働く知人から偶然仕事を頂いた。当時収入ゼロだったのもあるけど、相当な額に見えてね。それよりも、これが実績になって、手に職がついたらいいなという期待が大きかった。以前から、「絶対に翻訳やりたい」というよりは、生き残るため始めたのがきっかけやね。

ー組織で働くのと比べて、お金の貰い方も違いますよね。やっぱり自分で稼いだぞ!という気持ちはするんですか?

それが不思議なもので意外としやへんねん。結局、関係性の中で仕事をもらってるから、人に生かしてもらってる感覚が強い。

ー翻訳の世界って結局コネ社会なのかなぁ、というイメージがあります。

そうやね。実力があれば自然とコネも増えていく。今は手を動かす仕事をしているけど、将来的にはコネの中から仕事を取って誰かに振る側になってるかもしれない。例えばこの前の仕事の流れはこう。まず翻訳会社が大きな案件を受注する。そこで、実際に手を動かす翻訳家を募集する。翻訳会社には、手直しをする人が何人がいて、フィードバックが入る。

ー受注する役、翻訳する役、チェックする役。チームワークなんですね。

プロ野球で言えば、プレイヤーと監督コーチ側に分かれると思うんだけど、僕は手を動かしてる方が好き。ずっとプレイヤーでいたいと思ってる。

ーフリーランスって究極の自由ですよね。いつ仕事しても良いし、休んでも良い。時間をコントロールするのは難しいですか?

そうやね。いつまでも仕事できる一方で、調べものをしてると脱線したり。友人とご飯あるからそれまでに終わらせようと思っていても、結局後回しにしたり。集中できる時間も限られている。この前の仕事は、六週間で180ページぐらい。一週間で30ページ。週二日休むと一日6ページ。月曜は集中してやれても、火水になると段々ダレてきて集中力がなくなってきたりもする。僕は夏休みの宿題とか、始めにほとんど終わらせないと気が済まないタイプだったんやけど、尻に火がつかないとできないことがあることに気付いた。

ー翻訳って単純作業なところありますもんね。でも一方で、創作活動の要素を含んでると思うんですね。

クリエイティブさは求められる。あえて、思い切ってニュアンスを変えてみたりね。言語を変換するときに100%同じニュアンスを残して伝えるのは不可能。だから、いかにニュアンスを汲み取って、自分の脳で変換をして、一方の言語で適切な形に直すかが大事やね。
ークリエイティブ要素もあるけど、言語を変換するプロセス部分ってコンピューター的なところがありますね。翻訳家の共通の悩みとかってあるんですか?最近、翻訳専門のクラウドソーシングサービス出てきましたよね。
翻訳家の間でよく話題になるのが、仕事の単価が下がっていること。昔からやってる人によると、相当下がってるみたいやね。クラウドソーシングが普及してきた影響もあるかもしれない。仕事をする立場から言うと、クラウドソーシングの仕事を受けるのは、割に合わなすぎて厳しい。
ーこれもよく話題になると思うのですが、google翻訳もスゴイじゃないですか。テクノロジーの発達についてはどう思いますか?

危機感はある。いつか仕事がなくなるんじゃないかなと。でも、皮肉な部分もあって、ほとんどの翻訳家は、テクノロジーに頼っていて、トラドスという翻訳ソフトを利用している。過去に翻訳した文章をデータベースに残して、以後似たような文章の変換があれば勝手にソフトが一番適切な文章を選んでくれる。人は、それを参考にして仕事を進める。何十年も翻訳経験ある人がバリバリ使ってるからね。テクノロジーと上手く付き合って、仕事の効率を上げていくのは必須やと思う。

ー翻訳家も結局コンピューターに頼らなくちゃいけない。面白いですね。先ほど、クリエイティブの話が出たと思うんですけど、芸術と一緒で人間しか出来ない部分って残ると思うんですよね。

うん、文芸翻訳は特に残るだろうね。データベースに残せない微妙な感情表現とかあるから。この業界で生き残る人は、伝統工芸家みたいな人だと思うよ。翻訳に対してプライドを持って取り組んでいる人。具体的に言うと、見直しを何度もしたり、一つ一つの文章にこだわりをもって向き合える人。

ー藪内さんもそんなこだわりを持ってやっていきたいと思いますか?

おそらく、100年後も安く機械だけで翻訳するの賛成派と、反対派に分かれると思う。今だって大量生産で作られるものもあれば、手作りにこだわり続ける人もいるよね。であれば、機械翻訳を良しとしない人同士でコミュニティを作ってお互い協力していく。翻訳の仕事のやりとりだけじゃなくて、情報交換していく中で他の仕事も生まれるかもしれない。翻訳というスキルで仕事を得るのではなくて、藪内さんだから任せるという風になっていきたい。

ーそれが藪内さんの生き残り戦略ですね。


案外やっていけると思うよ。周りの人は、「翻訳の世界は厳しいからやめとけ」と言うけど、それはやったことない人が言う言葉なんだよね。一歩踏み出してみると、開けて見える世界がある。楽観してはいけないけど、変な自信がある。50歳ぐらいの翻訳家の人に最近こう言われたんだよね。「翻訳の世界の人って翻訳のことしか考えていないけど、藪内さんは広い視野を持っている。翻訳家らしからぬ独自の視点で頑張ってほしい」って。翻訳の単価が下がることに不満をもらす人は多いけど、それに対して彼らは変わろうとしない。文句だけ言ってないで、新しいやり方を模索していかないと。新しい翻訳家のモデルとして活躍していきたいね。モデルじゃないのが、モデルかもしれへんけどね。

〜〜終了〜〜

藪内達也|フリーランス翻訳家
大学時代は、ポーランドでインターン、伝統工芸品の海外販売事業に携わる。普通の学生とは一風変わった経験をする傍らブログでの情報発信を続ける。一度就職するも半年後に退職。現在はフリーランスの翻訳家として活躍する。




…やっぱり、相変わらずなかなか大口叩いていますね自分(笑)

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