2014年4月5日土曜日

完結した英語の世界の美しさ

今TOEICの勉強を少ししているんですが、「990点満点対策」という本を読んでいると、こんな「実力チェック問題」が出てきました。




「文法理解を試す究極の問題」と銘打って出されているのが、こちらです。

*次の文を訳せ

He said that that that that that that that that man referred to was supposed to indicate, was out of place in the sentence.


これを読んだ時は「うげえ(苦笑)」となったワケですが(笑)、最初二つのthatがそれぞれ、節を導くthatと指示代名詞のthatであることはすぐに分かるんですが、これだけthatが続くと、正直考える気が失せます(笑)

*考え方と訳 He said [that [[(that) "that"]] (that [[(that) ["that"]] (that [(that) [man]] referred to)] was supposed to indicate,)] was out of place in the sentence.

書き写すだけでしんどいですが(笑)、簡単に言えば
that=節を導くthat(I think that...のthat)
that=指示代名詞のthat(That pen is mine.のthat)
that=名詞としてのthat(thatというもの)
that=関係代名詞のthat(I have a pen that my friend bought.のthat)
という四種類のthatがあって、意味は

「あの男が言っていたあのthatが指し示すことになっている、あのthatという単語は、その文の中では場違いのところにありますよ、と彼が言った。」

というようなものになるんですが…

正直、こんな文章だれも使わへんやろ、っていうのが僕のツッコミです。
(上の文章は分からなくても大丈夫だと思います。間違いなく日常では使いません。たぶん国際会議でも使わないでしょう。)


◎「英語を勉強する」ことと「英語を使って仕事をする」ということは全く違う

仕事は翻訳ということで、いろんな文章を英語から日本語に訳したり、逆に日本語から英語に訳したりしているわけですが、仕事で使う英語や、それに対する勉強は、大学受験やTOEIC受験のそれとは全く異なる、ということに気づきました。


何が違うのかというと、受験英語(TOEICの英語)は、それ自体で完結されたものだということです。言い換えれば、高校で勉強するような数学の世界のようなもの。逆に、仕事で使う英語は、数学ではなくて理科。数学で覚えた公式や考え方を、どうやって使っていくかが試されるものだと思います。


それ自体が完結されたものとは、どういうことでしょうか?同じ本に、次のような問題も出てきました。

*次の熟語(表現)の意味を記せ。(多義語の用法)
1、an opening address
2、pay one's addresses to ~
3、speak with address
4、address an assembly
5、address questions
6、address the issue
7、address the ball
8、address the data

それぞれの意味は
1、開会の辞
2、〜に言い寄る、求婚する
3、手際良く話す
4、参会者に向かって演説をする
5、質問をする
6、その問題に的を絞る
7、ボールに向かって打つ姿勢を整える(ゴルフ用語)
8、データをアドレス指定する(=記憶装置の特定の位置に入れる)(コンピュータ用語)

で、「これらの表現の意味が7個以上分かったら超上級者」と書いてあるんですが、僕は正直、二つくらいしか分かりませんでした…。

でも、実際のところ、これは辞書を引けばわかることですし、もっといえばなにか翻訳をしていたり、通訳だったり、英語を使って会話をしていたり(@オフィス)すると、その前後の文脈(コンテクスト)から推測をすることも可能です。実際に僕は、仕事をしていて分からない表現や単語が出てくれば、何度も辞書や辞典を引きますし、Googleで検索をして意味や周辺分野の表現、用語、概念を調べます。なので、上の8つの表現を見ただけで意味が分かっても、それを実際に活用できるかどうかは別の問題だし、これらを記憶して「知っている」ことが、必ずしもすごいことではないというのが、正直な感想です。


つまり、これらの表現を見るだけでその意味を知っているというのは、仕事で使うと言ったような、現実的な世界とは全く離れたもの、つまりそれ自体が完結しているものだと思うのです。


もちろん、この完結した世界が悪い、ということを言っているわけではありません。ですが、最初のthatが八連続で出てくる文章にしても、こんな文章が何かの報告書や発表で出てくることなんてまずないですし、仕事をしていて、addressの熟語の意味そのものを問われることなんて、まずないわけです。ですから、これらの問題は、純粋に「頭を使う」、解を見つけるという意味では有益なものなのですが(高校数学でやったような、公式を導くための証明のようなもの)、これが実用的なものなのかと言われれば、僕は「?」を付けざるをえません。

他の例をもう一つ。

関係代名詞には、限定用法と継続(非限定)用法という、二種類の用法があります。
限定用法というのは、
I know the girl who lives in that town.(私は、あの街に住んでいる女性を知っている。)
というもので、who以下の部分が、girlを「限定的に」修飾する用法。
一方継続(非限定)用法というのは、
I know the girl, who lives in that town. (私はあの女性を知っている。彼女はあの街に住んでいる。)というような、関係代名詞の前にカンマがついているもので、訳す時に前から後ろに続いていく(継続)というものです(girlを限定しないので、非限定用法とも言います)。


これは、いわば大学受験の参考書(高校の教科書)に載っている説明です。

これは、基本的に正しいです。が、翻訳の世界では、例えば関係代名詞を含む文章があまりにも長いために、関係代名詞の前にカンマがなくても、そこで区切って文章を分けて翻訳をしたり、逆にカンマがあっても継続用法で見られるような訳し方をしたり、ということがあります。


これらは全て、生きた英語なのです。裏を返せば、大学受験やTOEICで使われる文章や表現は、剥製のように美しいですが、剥製だがゆえに、血は流れていない。つまり早い話が(表現は悪いですが)屍です。


英語では、様々な単語や熟語が出てきたり、文法項目があったりと、覚えるべき部分はたくさんあります。ですが、実際に仕事をしていると(これは翻訳の世界だから言えることかもしれませんが)、分からなかったら調べることができますし、前後の文脈やコンテクストから判断して、意味を推測することも可能です。(後者は通訳でも使えますね。)話をしていて、上に出てきた熟語が分からなければ、自分が知っている他の簡単な表現で間に合わせるということも可能です。


こういう「生きた英語」と「死んだ英語(完結した世界)」があることは、英語を実際に使って仕事をしたり、コミュニケーションを取ったりすることがないと、なかなか実感できないことだと思います。僕は、受験英語やTOEICの英語が不要だとは思いません。物理や化学の世界では、数学で学んだ関数や微分積分、ベクトルの考え方が必要なように、基礎体力として語彙が多かったり、文法をきちんと理解しておく必要はあると思います。

ですが、言葉とは生き物であって、これらの「美しい世界」で完結するものでは決してない、ということを、知っておかなければならないことも事実でしょう。わからない単語があれば調べる、自分の知っている表現で代用する、前後の文脈から判断をする、このような力も、仕事をする際やコミュニケーションを取る際に必要になってくる能力であって、むしろこちらのほうが、実用的な世界(完結していない世界)では重要なのかもしれません。

「調べたら分かるものを記憶しておく必要はない」と言う言葉があるように。
(これ、誰の言葉だったっけ…アインシュタインかアブラハム・リンカーンか、グラハム・ベルかジェフ・ベゾスだったような気が…)

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